名刺カードを用いた患者指導の試み
島根県保険医協会 木島良民
key words :名刺カード、患者指導、パソコン、インフォームドコンセント
要旨
・今回独自にパソコンを用いて名刺カードに患者指導箋としてその要点を印刷し、外来診療で患者指導を試みたので紹介した。
・既製のサイズのものに較べ、コンパクトで利用し易いため、利用者の日常生活指導は徹底されるように思われた。
・今後引きつづき、種類を増やし、インフォームドコンセントの道具としてさまざまなシーンでの普及を計りたい。
はじめに
どんな忙しい日常診療の中でも、患者が医師の提供する情報を、正しく理解した上で指導内容を家に帰ってからも継続実行し、はじめて一連の医療は完結する。しかし、患者の中には外来での通り一遍の話しだけでは病気や療養指導の説明・内容を十分に理解せず、医療情報提供者である我々にもさまざまな努力の必要性を感じることがある。これまでに、製薬会社等は多くの患者指導箋を提供してきた。その中には優れたものもあるが、内容や種類が偏り、外見は立派でも、指導のポイントが必ずしも明瞭でないこともある。今回独自にパソコンを用いて取り扱い易い名刺サイズのカードに日常生活上の指導要点のみを印刷し、外来診療に試用したので紹介する。
研究目的
パソコン上で作成した名刺サイズのカード型指導箋と既製のものと比較し、患者側での理解のしやすさや指導にもとづいた活用のし易さについて検討した。
対象
平成13年12月初めから平成14年12月初めまでの間に当院に来院した患者のうちで、表1に挙げたタイトルに関連して日常生活指導の必要性認め、外来指導を行いその後のアンケートで回答を得られた3歳から70歳までの31人の患者。
方法
1)使用した機材
ノートパソコン(NECLaVieC LC50H/3,OS-Windows98),プリンター(HP社製DeskJet710c)、
プリンタ用紙(A-one社製、イノアマルチカード品番51002)、ソフト(http://www.a-one.co.jp/よりダウンロード)
2)カード作成に際して心がけたこと
@カード表面の行数はできるだけ8行までとする。
A文字は見やすく読みやすく親しみやすいフォントとする。
Bインパクトのある表現とする。
C最小限守ってもらいたい点のみを記載する。
Dカードの表面にはタイトル、病気の予防・日常生活上の注意、裏面には病気の補足説明や是非見てもらいたい
関連したインターネット上のホームページ(以下HP)等とした。
3)これまでに作成したテーマは27種類(10月28日現在は31種類)で表1に示す。
4)作成したカード型指導箋例のいくつかを図1に示す。
5)表2のアンケート用紙を用いて名刺カードによる指導箋の利用や理解のしやすさ、カードと文字サイズ、
有用性その他について利用者に感想を求めた。但し小児については保護者に意見を聞いた。
(表2は別ページにありますので文章中の「表2」をクリックしてください。)
結果と考案
療養担当規則の中で患者指導については以下のように定められている。即ち、保険医の診療は、「的確な診断をもととし」、「患者の健康の保持増進上妥当適切に」、「懇切丁寧を旨とし」、「療養上必用な事項は理解し易いように」また「心理的な効果もあげることができるよう」、「予防衛生及び環境衛生の思想の涵養に努めなければならない」。しかし、わが国のような多忙な日常診療の現場では患者は医師から十分な説明を聞くこともできず、大小の不満を抱きながら医療機関を後にすることが稀ではない。その原因として患者側には「外来が多忙だから聞きたいことが聞けなくても仕方がない」、「疑問点を医師に聞くと、前回は叱られたから今回は我慢しておこう」といった自制した心理面がある。一方コンピュータのCRTディスプレイを凝視し、患者と面と向かって話をすることが少なくなってきている医師の中には「患者の話に耳を傾けても、自分の話すことをどうせ相手は理解することができないのだから、患者と話すだけ時間と労力の無駄使いだ」といった据傲な姿勢がいくらかあるかもしれない。いずれにしても、医師・患者の両方にインフォームドコンセントを推進する上で、さまざまな障壁がある。しかし、どんなに外来診療が多忙であろうとも、やはり「くすりをきちんと飲むことの必要性」「飲まないことによって生じる危険性」等を十分患者に説明し理解を求めることは前述のごとく医師の義務であり、このことは小さなことのようであるが実はとても大きな意味がある。というのは、小さな医療事故の累積が大きな事故に結びつくように、医師と患者のコミュニケーションが希薄となれば医師への不信感を生み易くなり、そのまま治療効果の低下・中断だけでなく転医やドクターショッピングへと容易に進展するからだ。
今回、既製の指導箋ではなく日常診療の中で「この点はきちんと押さえておいてもらいたい」と思うプライマリケア医としての指導のポイントを、凝縮した言葉で名刺サイズカードに載せ患者に活用してもらう試みをした。自作の指導箋による患者説明には、指導時の声にもいきおい力が入る。しかしそれ以外に、自家製のものは治療者側の心のぬくもりを患者にいくらかでも感じてもらえるのではといった副次的効果もひそかに期待している。サッカー競技のルール違反になぞらえて、きちんと指導を守らない患者へは、「イェローカードですよ」といって該当の指導箋カードを一部カラー化して渡し、指導内容の徹底を求めるようにしている。また乳幼児向け指導箋はカードの4角を丸くカットし利用時の危険防止を計っている。
アンケート結果を表3に示した。質問の「文字の大きさ・見易さ」では94%の人が、「カードサイズ」については77%の利用者が“ちょうど良い”と回答した。「内容の理解し易さ」については90%の方が“理解しやすい”、有用性については84%の利用者が“役立つ”と答えた。指導箋利用者の回答結果は概ね好評であった。何度でも、必要な時に上質紙上に活字で即座に印刷でき、10枚単位という小部数で出力できることは、改定が容易であることとあいまって、ひとつの利用し易い指導箋のスタイルであると思われる。診察室の机上は診療用備品であふれていることが多いが、この指導箋はA4サイズのものと較べても10分の1以下の面積比でコンパクトなため保管場所を取らないというメリットもある。指導するポイントが箇条書きされているため、忙しい外来でも、ポイントをつかんで患者との対話が可能で、説明の際の落としが少なくなることも利点の1つとしてあげられる。患者は医療機関を離れて自宅や職場でも手帳や財布の中に入れておけばいつでも指導内容の確認ができ、実行への最短距離に名刺カード指導箋は位置する。今後さらなる積極的な利用・普及を図りたい。
(表3) アンケート結果(%) n=31
Q1&Q2 | 指導箋サイズ | 文字の見易さ |
良い | 77 | 94 |
小さい | 16 | 0 |
なんともいえない | 7 | 6 |
Q3&Q4 | 理解し易いか | 役立つか |
はい | 90 | 84 |
いいえ | 7 | 0 |
なんともいえない | 3 | 16 |
長所は短所になりうるものだ。指導箋はサイズを小型化したため、表現はできるだけ簡潔にせざるをえなくなり、理解しづらい所もあるかと思われる。このため言うまでもないが、使用にあたってはカード記載の要点とその内容を、医師が理解した上で十分時間をかけて患者等に説明する必要がある。A4やB5等のサイズでイラストや図表を入れた従来の指導箋は利用者が熟読すれば、あまり説明なしでもそれなりに有用なので、これまでどうり必要に応じて上手に活用したらよいと思われる。頻回に使用しているかどうかのアンケート結果では今のところ必ずしもよく利用されているとは言い難かった。今後この点については検討を重ねたい。
おわりに
2002年開催の第17回医療研究集会では医療の現場で実際使用しているもの全てを供覧した。この印刷物が読者の手元に届くころには、インターネット上に今回提示したタイトルの患者指導箋が掲載されているはずだ。ご興味のある読者はどうか、上記のキーワード(key words :名刺カード、患者指導、パソコン、インフォームドコンセント)を手掛かりにして、筆者のHPより関連した指導箋をダウンロードされ、より良い医師と患者の人間関係の構築にこの名刺サイズ指導箋を役立てられたい。「名刺サイズ患者指導箋」は日常診療の中で必要と感じたテーマについて、コツコツとメモして作成してきた。まだまだ十分な種類数とは言えない。今後もひきつづき「名刺サイズ患者指導箋」の種類を増やす予定である。また本稿を読み、もし「自分も作成してみた」、「こんなものが患者指導に役立ちそうだ」というものがあればどうかこのデータベースの蓄積に手をさしのべて欲しい(E-mail:yoshi512@ruby.ocn.ne.jp)。
最後に、この指導箋普及のために名刺サイズ指導箋を実費で頒布の予定である。「インターネットなんかは面倒だが、名刺サイズ指導箋はおもしろい」、「ひとつ使ってみるか」という方は、島根県保険医協会(FAX 0852-27-5724、TEL 0852-25-6250)まで。
月刊保団連2003年2月号投稿中